2016年4月5日火曜日

坂村健著「IoTとは何か  技術革新から社会革新へ」、角川新書

ひと昔前ならユビキタス、その前ならTRONで有名だった、東大の坂村健教授の新刊である。IoTとは、Internet of Thingsの略であることはよく知られているが、坂村氏の考えるIoTというものが、単に、ものをネットワーク化するというだけでなく、IPアドレスのように、ucodeという個別のコードを充てるというものであることを知った。坂村氏のTRONおよびユビキタスは、すべてIoTに密接につながっていることから、IoTの30年来の研究者と自称する。

坂村氏は、日本の産業社会の特質を「ギャランティ志向」と特徴づける。動くことが保障されなければ製品にできないというギャランティ志向の日本型ビジネスモデルが、「閉じたIoT」には良くても、「オープンなIoT」には向かないという点が災いしている。これは、インターネットもベストエフォートで動くものであって、それをベースにしているIoTでもスピートで勝てないと彼は危惧している。IoTは、汎用のucodeをベースにしている点が、今までの商品のように、自社の製品だけで通じるコードとは異なり、どこの製品であろうが、それが読めて、それに関する情報が得られることを目指している。そのように、日本にとってなかなか推進が困難なIoTではあるが、IoTが食品の生産から販売までのトレース機能であったり、旅客機のメンテナンス履歴であったりと、そういうものが、IoTにより容易になることのメリットは大きい。

IoTが、いろいろなものに革新的な変化をもたらすことは想像に難くない。しかし、昔できた法律に書かれていないことは「ダメ」というのがルールの日本と、書かれていないことはOKというのが欧米のルールでは、新しいことの導入の困難さが違う。坂村氏は、社会的改革の提唱を、技術を伴いながら行っており、偉大な真の科学者であると思った。なかなか難しい本ではあるが、将来の情報の専門家を目指す人には一読を勧める。