2014年1月22日水曜日

辻野晃一郎「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」、新潮文庫



著者は慶応の修士課程を出た後ソニーに入社するが、22年間勤務後退社し、退社後1年の値にグーグルに入社、その約2年後にグーグル日本法人の社長になるが、1年余りで別会社を立ち上げた人であり、本書はその人の自伝である。
ソニーへはあこがれの気持ち一杯に入社したが、それは井深大と盛田昭夫へのあこがれだったようで、入社時の盛田社長の訓示にあった「人生の大切な時期を過ごす場であるソニーが皆さんにふさわしくないと思えば、時間の無駄だからすぐに去ってほしい」という言葉を覚えていたらしい。私など、入社式の光景をまったく覚えておらず、このあたりから辻野氏と私との違いを感じさせる。その言葉は、実際に著者がソニーを辞める時に影響していたという。22年間は長い。当然いろいろな体験があっただろう。ソニーでのさまざまな経験談が語られており、我々が製品に接してきたVAIO開発の裏事情がよくわかる。多くの不満も述べられているが、会社から留学させてもらったり、社内でいろいろなプロジェクトを担当させてもらったりと、決して干されていたわけではない。多くのサラリーマンから見れば、贅沢な悩みに映るだろう。
その著者が、同社内で鬱積した不満がついに爆発して、飛び出してハローワークに通ったということだが、その後の経歴を見ると、この著者にとってはあまり特別な行動ではなかったようである。
ハローワーク通いもつかの間、ヘッドハンティングの会社からグーグルへの興味の打診があり、同社の入社試験を受けている。同社の採用基準が記載されているが、学生諸君にも興味があるだろうから書いておくと、地頭(じあたま)の良さ、これまでの職務実績と社会貢献、リーダーシップ、グーグリネス(グーグルに合うかどうか)の4つだったそうである。グーグルは大学よりももっと自由なところと述べられている。今のグーグルを見ると、とてつもなく先進的な会社なのだろうと思ってしまうが、当時、ソニーは後追いしていたわけではなかった。いま海外企業が成功している事業の多くのものをソニーの中では自社内で手がけてきたことを紹介しており、ソニーはいろいろな先進的な目を持っていたことがわかる。このあたりの体験が本書のタイトルにつながっているのだろう。また、辞めても消えないソニーへの愛着が垣間見える。
そのグーグルさえもやめて、自分で会社を興している。まだいろいろな挑戦が続くのだろう。今後の辻野氏が何をしていくのか、興味は尽きない。

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