2014年8月10日日曜日

阿川佐和子「叱られる力 聞く力2」、文春新書



タイトルから明らかなように、大ヒットした前著「聞く力」の二匹目のどじょうを狙ったものらしい。
2~3時間で読み切った。前著ほどの説得力は、ない。残念ながら。本書を通して最も頻繁に出てくるのは阿川さんのお父様、つまり、阿川弘之さんであり、著者からすると、かなり怖い存在のようなのである。佐和子さんはお父様とケンカをするつもりはないが、古い古い価値観で何かにつけて干渉してこられる。そこで叱られるのである。叱られても、真っ正面から対決をしたりはしない。そこが賢い、そして優しい佐和子さんなんだろう。

本書は上手な叱られ方ばかり書かれた本かと思ったがそうでもなく、半分は、叱り方について書かれている。特に、現代の若い世代の人たちのしかり方がいろいろ書かれており、私も参考になった。叱り方、叱られ方だけでなく、人付き合いの本だと思ったらよい。

最も参考になったのは、「叱り方の極意」として書かれている「か、り、て、き、た、ね、こ」。「か」は、「感情的にならない」。「り」は「理由を話す」。あとは、本書を読まれたし。

2014年7月11日金曜日

香山リカ「ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか」、朝日新書


ツイッター、FacebookLINE…隆盛を極めているが、皆が楽しんで使っているのか?どうも、いろいろな問題がある。著者は、SNSが使えないような古くさい人ではないし、実際、多くの使用経験も持つ。だからこそ、こうしたシステムに対して、真正面から議論を挑むことができるのだろう。

1章では、SNSにおいて、24時間、いつも自分をさらけ出すものだと思っているために生まれる問題点を筆者は強く指摘しているようである。分娩台にいるときの様子や、夫婦の間のことなど、それを、目の前にいる自分に臆面もなくさらけ出されることの不快感、顔が見えないことによる、出会い系での性別詐称、ブログでは嘘を書くことが許されないと自己規制するあまり、リッチな自分をブログで演出するために多大な出費をする人、これらをSNS疲れと呼んでいる。

2章では、ネット上で人は傷つけ合うことを例示している。このことは、多くの人が経験しているだろう。さらに、自分で自分をだますということがおこるということを指摘している。そこには、匿名性が潜んでいる。

3章はネトウヨについて論じている。4章はプチ正義感。普段はいい加減な人たちまでが、ネット上では、えらく正義感あふれた、ご立派なご仁になられる。これによって、どれだけ窮屈な社会になっているか。

5章ではネット・スマホ依存を明確に病気として位置づけている。6章はSNSが日本をどうかえるのかということを、現在の政治を引き合いに出して論じている。
全体的に、極めてSNSに対して否定的な論調であり、厭世的でもある。解決していく糸口も見えない問題の山を目の前にして、それだけはいやだと言っているように見えるが、あきらめているように見える。

読み進めていくと、私は著者とほぼ同世代のせいか、ほとんどの部分に納得でき、精神科医である著者に教えられる面も多い。要するに、大変勉強になったという感じが強いが、明るい未来は見えない。

2014年2月23日日曜日

キャサリン・サンソム「東京に暮らす」、岩波文庫

先に読んだ、藤原正彦氏の「名著講義」で紹介してあった本である。そうでもない限り、こういう古い本を読むことはあまりない。
この本の筆者は、1928年~1936年、外交官でご主人になるジョージ・サンソム氏と日本にやってきて、その直後日本で結婚し、8年間日本で暮らしたときのあれこれが書かれている。

日本は昭和初期であり、私もあまり知らない時代であり、その頃の日本人の様子がよくわかる。どうかというと、日本人の性格を驚くほどよく捉えている。もっとも、ごく最近の日本人は少々違う。私の知っている、昭和の時代の日本人そのものである。
その当時から、日本人はイギリス人の筆者にはとても親切だったようであり、この本を読み進めていくと、同じ日本人として、うれしくなるような感覚だった。いわゆる、「おもてなし」精神は当時も(というか、当時は今以上に)あったようである。
もちろん、今ほど経済的に豊かではないが、それでも、精神的には当時の日本人が非常に豊かであったことを知ることができる。

筆者は日本の風呂が好きだったようで、 日本では混浴が当たり前だったことに驚きと関心を持ったようである。白人がその当時に混浴の風呂に入ったら、どういう視線があったか、想像に難くないが、不快な思いはされなかったようで、西洋人の想像できない日本人の風呂文化があったと思われる(今は混浴は少ないが、そういうところでは昔も今も変わりないだろう)。

戦前に、イギリス人がこのように、日本を体験していたことは、私の想像を超えるものがあった。どうしても、今の日本をその時代に重ねて考えてしまうが、政治的なものは抜きにして、人と人、文化の視点で外国人を直視することの大切さを知った。

2014年2月16日日曜日

福澤諭吉著齋藤孝編訳「福翁自伝」、ちくま新書



 私は最近少々古い本に凝っている。この本は諭吉が晩年、半生を振り返ってかなり自由な感じで書いた本である。現代語訳になっているので、すらすら読める。訳者の齋藤孝氏も、この本は「学問のすすめ」と一緒に読むことを勧めている。私も以前、学問のすすめはまさに齋藤孝氏の訳で読んだ。学問のすすめも意外に面白いと感じたが、福翁自伝は福澤諭吉の人間性があふれていて、なかなか興味深い。
 福澤諭吉と言えば慶應義塾大学の創立者として有名であるが(1万円札といったほうがもっとぴんと来るか?)、江戸時代末期に咸臨丸に乗り込んでサンフランシスコに行ったときの話が面白い。ペリーが浦賀に来てから10年後に日本から大挙してアメリカに視察に行ったことは、アメリカ人から驚きを持って迎えられたそうである。非常に歓待されたとも言っている。まだ英語を使いこなせる日本人が少なかったこの時代、オランダ語に訳して理解していたというから面白い。アメリカのホテルは、おそらく今のホテルとあまり変わらないと思うが(もちろん違う部分があるだろうが、日本の当時の旅籠と今のビジネスホテルのような違いはきっとないに違いない)、刀を差してホテルの中を歩いている姿を想像することは面白い。当時、まともに辞書もなく、コピー機もない時代にどうやって外国語を理解したか、非常に興味深い。
 福澤は、咸臨丸に乗る前に、大阪の緒方洪庵の塾に入って医学の勉強をしている。そこでしのぎを削って勉強した様子が面白い。まさに、歴史ドラマの中に出てくる世界である。当時、勉強しようとしたらまず本を写すことから始めたことが、改めてわかる。本もなく、丁寧に手取り足取り教えてもらえるわけではない。他の人の目を盗んで勉強するのである。人間の勉学への意欲は、勉学の環境とはほぼ無関係、いや、負の相関があるようにも思える。彼のごく近辺で、腸チフスやコレラなどの病気でなくなる人も多数あったようで、ほんの一昔前まではこういう世界の中で人間は生きていたのだということが改めてわかる。
 福澤は大の酒好きだったようだ。博打や女郎屋には近寄らない。いつも、冷静沈着ながら、いろいろなことに興味を持って、大きく生きていた様子が、この自伝から伝わってくる。

2014年2月10日月曜日

藤原正彦「名著講義」,文藝春秋

言わずと知れたお茶の水の先生の単行本.出版されたのは2009年末だから,4年前の出版だが,いままでほとんど読まずに積んでいたのを,このほど取り出して読んでみた.

毎週文庫本を1冊ずつ課題に出し,読んできたその本について,教授と学生の間でいろいろとディスカッションをするというゼミの様子を本にしたものである.今で言う「反転学習」の先駆的なものか.

本は,古き時代の日本を紹介し,日本人とは何か,日本人とはこんなにすばらしい民族だということを誇示するような本が並んでいる.挙げてみると,
武士道
余は如何にして基督信徒となりし乎
学問のすすめ
新版 きけ わだつみのこえ
逝きし世の面影
武家の女性
代表人日本人
山びこ学校
忘れられた日本人
東京に暮らす
福翁自伝
若き数学者のアメリカから郷愁へ
となっている.最後のものは藤原氏自身の本である.
昔の日本人が書いたものを直接読むということは,語り部の話を聞くようで,大変心にしみる.日本人の特性で,我々が忘れている特質を思い出させてくれ,それがまた自信につながるような仕組みとなっている.当時の外国人から見た日本・日本人のものも含まれており,日本人がいかにすばらしい人々なのかを教えてくれる.

この本を読んで,学生がしっかりと予習をしてきているからできるということ,また,その本の主張にご自身の主張を重ね合わせて学生にしっかりと日本人教育をしているところに感動を覚えた.

2014年1月22日水曜日

辻野晃一郎「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」、新潮文庫



著者は慶応の修士課程を出た後ソニーに入社するが、22年間勤務後退社し、退社後1年の値にグーグルに入社、その約2年後にグーグル日本法人の社長になるが、1年余りで別会社を立ち上げた人であり、本書はその人の自伝である。
ソニーへはあこがれの気持ち一杯に入社したが、それは井深大と盛田昭夫へのあこがれだったようで、入社時の盛田社長の訓示にあった「人生の大切な時期を過ごす場であるソニーが皆さんにふさわしくないと思えば、時間の無駄だからすぐに去ってほしい」という言葉を覚えていたらしい。私など、入社式の光景をまったく覚えておらず、このあたりから辻野氏と私との違いを感じさせる。その言葉は、実際に著者がソニーを辞める時に影響していたという。22年間は長い。当然いろいろな体験があっただろう。ソニーでのさまざまな経験談が語られており、我々が製品に接してきたVAIO開発の裏事情がよくわかる。多くの不満も述べられているが、会社から留学させてもらったり、社内でいろいろなプロジェクトを担当させてもらったりと、決して干されていたわけではない。多くのサラリーマンから見れば、贅沢な悩みに映るだろう。
その著者が、同社内で鬱積した不満がついに爆発して、飛び出してハローワークに通ったということだが、その後の経歴を見ると、この著者にとってはあまり特別な行動ではなかったようである。
ハローワーク通いもつかの間、ヘッドハンティングの会社からグーグルへの興味の打診があり、同社の入社試験を受けている。同社の採用基準が記載されているが、学生諸君にも興味があるだろうから書いておくと、地頭(じあたま)の良さ、これまでの職務実績と社会貢献、リーダーシップ、グーグリネス(グーグルに合うかどうか)の4つだったそうである。グーグルは大学よりももっと自由なところと述べられている。今のグーグルを見ると、とてつもなく先進的な会社なのだろうと思ってしまうが、当時、ソニーは後追いしていたわけではなかった。いま海外企業が成功している事業の多くのものをソニーの中では自社内で手がけてきたことを紹介しており、ソニーはいろいろな先進的な目を持っていたことがわかる。このあたりの体験が本書のタイトルにつながっているのだろう。また、辞めても消えないソニーへの愛着が垣間見える。
そのグーグルさえもやめて、自分で会社を興している。まだいろいろな挑戦が続くのだろう。今後の辻野氏が何をしていくのか、興味は尽きない。

2014年1月11日土曜日

阿川佐和子「阿川佐和子のこの人に会いたい9」、文春文庫

例の対談をまとめた本である。
今回は、次のような人の対談が載っている(全員ではない)。
糸井重里
稲盛和夫
三浦友和
高橋恵子
内田裕也
伊集院静
李登輝
・・・
どんな人とも、興味深く対談をなさるところがすばらしい。稲盛和夫氏は、JALを再建したことを中心にお話されている。稲盛氏が、いかにすごい人か、この対談からひしひしと伝わってくる。短期間であっても、しっかりとJALの中の人作りをされていることがわかる。対談の中で阿川さんが言っているように、もっとお若かったら、是非東京電力の再建をしていただきたいものである。
李登輝氏。今の日本の置かれている立場をどのように捉えたらよいか微妙なところが多々あるが、李登輝氏は、日本の良いところをしっかりとPRしていただいている。阿川氏が心地よく対談をされた感じがしっかり伝わってくる。伊集院氏の女性観。内田氏のやんちゃぶり。

前回の時には、あまり感じなかったが、阿川佐和子さんは、対談がお上手なのだと今回つくづく思った。対談中のツーショットが全部の方の中に載せられているが、相手を立て、いずれも好感を得るようなスマイルで写っておられる。