2013年4月28日日曜日

谷口忠大「ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム」文春新書

ビブリオバトルを考えた谷口氏自身による本である。ビブリオバトルは、話し手数名と聞き手(数名以上)があって、話し手が自分の好きな本をきっちり5分間、PowerPointを使わず紹介して、そのあと2~3分間ディスカッションをする。全員話し終えたら、聴衆が自分が最も読んでみたいと思った本に1票を投じ、票の数を話し手が競うというゲームである。

今まで、このゲームの内容については聞いて知っていたが、その成り立ちについては知らなかった。私にとって驚きだったのは、谷口氏がこれを考えたときは京大の片井研究室のドクターの学生だったということだった。片井先生も、また、同じ研究室の川上准教授も、よく知っている。

この本には、ビブリオバトルの成り立ちが詳しく書かれている。事の発端は輪講だったらしい。輪講は誰か(たいていは先生)が決めた本を、皆が順に説明をしながら一緒に読んでいくというものだが、本を選ぶところから研究の一部にしたいと考えた。そして、皆が推薦する本を紹介し合い、決めていくというプロセスから派生しているそうだ。その後、プレゼンをするときに、PPTを使わないとか、レジュメもなるべく使わない、5分間という時間もきっちりきめたなど、結構、厳密にゲームのやり方を決めてそれをビブリオバトルと呼んでいる。具体的には

ビブリオバトルの公式ルール
1.      発表参加者が読んで面白いと思った本をもって集まる。
2.      順番に一人5分間で本を紹介する。
3.      それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
4.      全ての発表が終了した後に「どの本を一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。

専用サイトも開設されており、川上先生、片井先生との共著の原著論文も書かれている。これを、自分の研究としたところもすごい。

我々も、pptを使わずに講演をすることなど、結婚式などの祝辞以外には滅多にない。5分間、原稿無しでしゃべるのは非常に良い訓練になるだろう。

面白そうだということと同時に、尻込みする人が続出するような気もするが、案外、若い人は出来るかもしれない。そういう意味で、早く試してみようと思う。

ビブリオバトル公式サイト
http://www.bibliobattle.jp/

2013年4月24日水曜日

湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂」新潮文庫

近くて遠い国。中国。私たちの年齢(昭和30年代生まれ)くらいが、最も中国に対して親近感を持っていた年代だろう。物心つく頃までほとんど何も情報がなく、眠れる未知の国という感じであった。ある頃(国交回復頃か?)から、日本から旅行のツアーが始まった。人民元と兌換元があり、外国人はレートの遥かに悪い兌換元しか使えなかった。それでも、日本は圧倒的な強さがあり、核実験以外は、中国を恐ろしいと感じることはなく、物珍しさからこの国や文化に近づいていった時代が続いたと理解している。そして、私は直接話したりメールを送る中国人の友人も何人かある(両手で数えられるほどではあるが)。もっと年配の人は戦争を知っているだろうし、もっと若い人は、強くなった中国しかしらない。

親しくなればとことん信頼できるが、物事に対する感じ方や方法など、よくもこんなに違うものだと思うほど違いを感じることもたびたびのこと。最近はそれが国際関係にも強く影響していると思われる。この国で、成功を収めたというイトーヨーカ堂の物語である。さもありなんと思われる多くのトラブルが書かれている。それでも、この国で成功を収め、昨年のデモでもほとんど無傷だったらしい。
日本のブログやSNSでは、多くのネット右翼が日本人の中で理屈が通らない人に対して浴びせるのと同じような議論を中国に対しても行っているように思えるが、そこには、こういう国が隣にあるという現実をどうしていくのかという建設的な議論は見えない。この本を見ると、中国人とのつきあい方の一つのあり方が書かれているように感じる。

2013年4月8日月曜日

鈴木翔「教室内カースト」、光文社新書

ここで著者がいう「カースト」とは、同級生の間での地位の差のことをいうらしい。我々にとってなじみの薄いカーストと言う言葉を使ったのは何故だろうか。日本の地位の差の言葉を使ったら生々しくなるからか?
それはともかく、教室内で、活発なグループと、仲間はずれになるような子供たちが別れることは私も経験している。この本では、3つのグループに分けている。
この本を読んでみて、ヒンズー圏でのカースト制度、さらには、日本、もっとさらには猿などにもあるこうした上下関係のグループ化が高等動物の社会上必然性を帯びているのかどうか、ということに興味を持った。この本は、学校の中のカーストに焦点を当てている、というか、そこに興味が100%行っているようなので、残念ながら、人間社会でのカースト化の必然性や猿などのカースト化には言及がない。
多分、私の興味とは土俵が違うのだろう。

2013年4月7日日曜日

辻野晃一郎「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」、新潮文庫

ソニーに就職し、ソニーでVAIOの開発などを任され、事業部長くらいまでなった著者は、ソニーに入社したときに、井深大から「自分のためにならないと思ったときにはいつでもソニーを辞めてくれ」と言われたということを覚えていて、自分の気持ちに正直にソニーを辞めた。
そして、その後、ハローワークに通ったりしたときに、グーグルからお誘いがあり、グーグルの日本法人の社長を勤め、3年でやめて自分の会社を作った人の自己伝である。
会社にいたときに、アメリカの大学に留学した経験が、グーグルに入ることに大いに貢献したと思われる。ソニーが、留学経験を会社に生かそうとしなかったことが、辻野氏がソニーに違和感を感じることになった1つである。

すごい経験を持っているこういう人の自伝を、若い人は是非とも読んでほしいと思う。本来、仕事はこういう風にできればすごいなと思う。なかなかこういう人生を歩める人はいないけどね。