2011年10月19日水曜日

向田邦子「男どき女どき」、新潮文庫

肌に慣れた毛玉の出たおととしのセーターを着て、背中を丸めて、こたつに入り、みかんを食べる。うとうとしてきたら、そのまま体を伸ばして畳に寝そべればいい。夢見心地のなかで、風邪をひかないように誰かが綿入れの袢纏をそっと掛けてくれるのが判る-民謡にはそんな気安さがある。(p.152)
どうです、見事な描写ですね。この日本的な光景、見事に見せてくれます。向田邦子にこのところ首ったけです。

2011年10月11日火曜日

向田邦子「女の人差し指」,文春文庫

この人の描写には脱帽させられる.短い言葉の中に多くの情景が描かれ,その中での人の心が絵の中に現れる.
別の本の感想の中に,楽しくはないと書いたが,この本はとても楽しい.おしゃれであるが自分の地の部分を隠さず,いい女ここにありという感じがして,好きだ.

本を読むときは,好きな箇所を折ることが多いが,この本を読んで,5~6箇所も折ってしまった.その中の一つ.

「思いもうけて…」
よそのうちでご馳走になるのは何故おいしいのだろう.「方丈記」か「枕草子」か忘れてしまったが,昔の人はうまいことを言う.
「思いもうけて」食べるからだというのである.思いもうけて,というのは,期待する,という意味であろう.
という一節から始まる.心の準備があるからおいしいのだという.これは何事にも通じると思った.思いもうけて授業に出る,思いもうけて人に会う.いいなあ.逆に,何をやっても面白くない,味気ないというのは,それに向けて準備をしていないからであろう.とても心に残った.